Relay Interview リレー対談 国際協力の基本は受益者を支え、エンパワーすること。しかし、遠く離れた、社会経済環境も違う世界での支えは。日本の人々にはなかなか実感がわかない。身近なスポーツの世界から「支える」姿を伝えて啓発できるかもしれない。スポーツ対談を通して、当団体も生かし生かされる国際協力も見つめ直せるかもしれない。スポーツをするプレイヤーを支える人々に商店を当てた対談により、支えることの大切さとスポーツの力・価値を浮き彫りにする。

第3回 勝又 晋さん

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GUEST

独立行政法人国際協力機構(JICA) 青年海外協力隊事務局次長

勝又 晋さん

1964年静岡市生まれ。静岡聖光学院高校、東京大学卒。1989年からの川崎製鉄(株)勤務を経て、1996年国際協力事業団(当時)入団、フィリピン事務所、外務省出向、産業開発・公共政策部等を経て2018年1月より現職。高校、大学時にはラグビー部所属。

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INTERVIEWER

チャイルド・ファンド・ジャパン事務局長

武田 勝彦

中学時代のベトナム難民との出会いが転機となり、国際支援の道を目指す。金融機関での勤務経験や英国大学院留学を経て、いくつかの国際NGOにて、世界各地での開発支援事業や緊急復興支援事業の運営管理、事業部長や事務局長を歴任。2017年4月より現職。

今回は、スポーツと国際協力に関する会議やアジアンスクラム・プロジェクト(日本ラグビーフットボール協会のプロジェクト)でよくご一緒になる、勝又晋様をお迎えしての対談です。国際協力機構(JICA)にて、現在、青年海外協力隊のスポーツ隊員の派遣に関わるなど「スポーツと開発」の分野でご活躍されていらっしゃいます。

100年前の部歌がいまもチームを支える

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武田)勝又さんが大学4年生のときにラグビー部の会報にお書きになった『東大ラグビー部のエールについて』を拝読しました。部活に縁のなかった私には、部の歌というものが存在することすら知りませんでした。

勝又)多くの大学ラグビー部では部歌を持っています。実は私は部歌オタクでして、各大学の部歌について知るのはとても楽しいです。私のいた東京大学運動会ラグビー部は1921年に創部され、1924年には「Up, Up!」という部歌ができました。この歌詞を書かれたのは、当時、東大で教鞭をとられていた英国人のエドマンド・ブランデン先生です。だから、この部歌は英語になっています。この2番の最後の歌詞「Still Rugby will refresh the world」が私にとっては「No Side」や「One for All, All for One」といった日本ラグビーならではの価値のさらに上位に来る大目標だと思っています。

武田)私もすべての歌詞を拝見して、「And feel, when you and I are dumb, still Rugby will refresh the world」が最も印象的でした。勝又さんが在学中に元文学部長だった平井正穂教授は、「やがて、あなた(部の創設者である香山蕃さん)もぼく(ブランデン先生)も死んで、墓の下にいってしまっても、ラグビーが世界全体に若々しい活力を与えるであろうことを、私はいま感じている。」と奥深い解説をされてこれにも驚きました。100年前の詩がいまでもラグビー部の部員を支えていることに感動します。

JICAとスポーツ

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武田)JICAさんでは、スポーツと開発を積極的にすすめていますがこの点を教えてください。

勝又)スポーツと開発の取組方針は、SDGs(持続可能な開発目標)をふまえ、3 つの柱を設けています。(1)体育科教育の普及、(2)障害者や社会的弱者の社会参加・平和の促進、(3)国際競技大会への参加促進です。

武田)青年海外協力隊には、スポーツ隊員もいて、私も海外の駐在地でご一緒することもありました。ラグビー隊員の派遣状況はどうですか。

勝又)青年海外協力隊はこれまでに延べ5万人を派遣し、約1割が体育・スポーツ隊員です。ラグビー隊員は9ヵ国に約40名派遣しています。1990年代に2名派遣後、20年ほどラグビー隊員派遣はありませんでした。我々JICAの仕事は相手国政府からの要請がないと援助ができません。ラグビー隊員の派遣要請が必要なのです。でも幸い、日本でのラグビーワールドカップが決まり、日本ラグビー協会を通じた各国協会への働きかけもあり、2012年にラグビー隊員派遣が再開しました。

武田)勝又さんが日本ラグビーフットボール協会さんと連携して各国への働きかけをしている様子をいつも拝見していますが、地道で大変なお仕事だと思います。

勝又)青年海外協力隊の目的は3つあります。(1)開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与(2)異文化社会における相互理解の深化と共生(3)ボランティア経験の社会還元です。途上国の草の根レベルで協力隊員は活動していますが、3つの目的それぞれに対してラグビー隊員の活動もまさに同じベクトルで進んでいると感じます。

武田)ラグビー隊員としてスリランカに派遣されていた伊藤悠理さんのことがJICAさんのウェブサイトでも紹介されています。彼の実績を各方面から聞きますが、日本社会への還元にも期待が持てそうに思います。

人脈をつかって支える

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武田)勝又さんの現職でのラグビーへのサポートはお話を聞いていてよくわかりますが、何か他の方面でサポートはされていますか。

勝又)協力隊が関係するのですが、JICAではどうしても予算がつけられない案件がありました。スリランカとインドでの協力隊員の教え子によるラグビー交流です。どうにか実現させてあげたくて、お世話になっている他団体の方に受け皿になって頂きクラウドファンディングにトライしてみました。大学ラグビー部OB、他大学のラグビー部OB、JICAの国内外職員など手当たり次第にサポートを頼みまくりました。寄付期間の中盤までは芳しくありませんでしたが、後半に急増して目標額を超えることができました。

武田)ラグビーの熱意と団結力を物語るいいお話に思えます。目標額を達成できて本当によかったですね。勝又さんご自身、ラグビーに熱中していた頃、誰かに支えてもらった経験はありますか。

勝又)ラグビー部の同期には本当に支えてもらいました。一度、練習がきつくて大学ラグビー部を退部したことがありますが、同期に呼び戻されて結局復帰することになりました。このお蔭で、卒業までラグビーをやり遂げることができました。本当に感謝しています。

ラグビーの価値は数値で測れない能力!

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武田)ラグビーには5つの価値があり、そこが我々の青少年育成事業におけるライフスキルとの接点になっています。勝又さんにとって、スポーツの価値とは何だと思いますか。

勝又)キャノンイーグルスの和田拓主将(当時)の以下の言葉が、ラグビーの価値を表していると私は思っています。点数では測れない能力であり、上記JICAの3本柱の「体育科教育の普及」などで磨かれるものです。そして、ここがはじめに紹介したブランデン先生の部歌「Up, Up!」につながるものなのです。

「ワールドラグビーが掲げるラグビーが持つ5つの価値には、こうあります。
・INTEGRITY(インテグリティ)、いかなる状況でもフェアである、誠実さ。
・PASSION(パッション)、ひとつの試合へかける、情熱。
・SOLIDARITY(ソリダリティ)、国や人種を越えた、結束。
・DISCIPLINE(ディシプリン)、激しさのなかでの、規律。
・RESPECT(リスペクト)、すべての人への、敬意。
このように、ラグビーというスポーツは、15人の選手たちが選手としてだけではなく、ひとりの人間として、つねに規律をもって判断を重ね、仲間を信じ、支えてくれる人への感謝を胸に、勝利に向かっています。」 (トップリーグ2015-2016プレスコンファレンスの選手代表宣言文の一部)


(対談後の所感) 勝又さんにはこれまでに何度かお会いしていますが、こんなに笑みを浮かべて熱く語る方とは全く知りませんでした。普遍的な価値というものは、国際協力でもスポーツでも、社会生活においてとても重要なものと改めて教えられました。この価値に導かれて、支えようという行動が出てくるのかもしれません。